技能実習
1.外国人技能実習制度
外国人技能実習制度とは、「我が国で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度」と定義されています。
つまり、開発途上国等の人に日本の技術や知識を習得して母国に帰ってから役立ててもらう趣旨の制度です。そのため、「技能実習は、労働力の需給の調整の手段としておこなわれてはならない」と明記されています。これは日本の人手不足を補うために単純労働をする労働者として技能実習制度を利用してはならないということです。このことは、平成29年11月施行の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」に規定されています。
<技能実習法>
平成29年11月に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行されました。
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図るため、技能実習に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、技能実習生の認定及び監理団体の許可の制度を設け、これらに関する事務を行う外国人技能実習機構を設ける等の所要の措置を講ずる。
<外国人技能実習機構>
外国人技能実習機構が行う主な業務
・技能実習計画の策定
・実習実施者の届出の受理
・監理団体の許可申請の受理
・実習実施者や監理団体に対する指導監督
・技能実習生からの相談対応
外国人技能実習機構は、東京品川の本部の他、全国13拠点に事務所があります。(札幌、仙台、水戸、東京、長野、富山、名古屋、大阪、広島、高松、松山、福岡、熊本)
※東京は本部と別に地方事務所があります。
2.外国人技能実習生の受入れ方式
受け入れる方式には、企業単独型と団体監理型の2つのタイプがあります。
2018年末では企業単独型の受入れが2.8%、団体監理型の受入れが97.2%(技能実習での在留者数ベース)となっています。
@企業単独型:日本の企業等(実習実施者)が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受け入れて技能実習を実施する方式
A団体監理型:事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方式
技能実習生は入国後に、日本語教育や技能実習生の法的保護に必要な知識等についての講習を受けた後、日本の企業等(実習実施者)との雇用関係の下で、実践的な技能等の修得を図ります(企業単独型の場合、講習の実施時期については入国直後でなくても可能です。)。
<1>企業単独型
日本の企業等(実習実施者)が海外の現地法人、合弁企業や取引先企業の職員を受入れて技能実習を実施する方式
海外の所属企業等の範囲
右記のいずれかの関係を
有する外国にある事務所
@日本の公私の機関の外国にある支店、子会社、合弁会社など
A日本の公私の機関と引き続き1年以上の国際取引の実績又は過去1年間に10億円以上の国際取引の実績を有するもの
B日本の公私の機関と国際的な業務上の提携を行っている等の密接な関係を有する機関として法務大臣及び厚生労働大臣が認めるもの
<2>団体監理型
事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体(監理団体)が技能実習生を受け入れ、傘下の企業等(実習実施者)で技能実習を実施する方式
3.技能実習制度の区分と在留資格
技能実習制度の区分は、企業単独型と団体監理型の受入れ方式ごとに、入国後1年目の技能等を修得する活動(第1号技能実習)、2・3年目の技能等に習熟するための活動(第2号技能実習)、4年目・5年目の技能等に熟達する活動(第3号技能実習)の3つに分けられます。
@技能実習1号(技能等を修得)
入国1年目は「技能実習1号」となり、企業単独型は「技能実習1号イ」、団体監理型は「技能実習1号ロ」となります。
A技能実習2号(技能等に習熟)
入国2・3年目は「技能実習2号」となり、企業単独型は「技能実習2号イ」、団体監理型は「技能実習2号ロ」となります。
1号から2号へ移行するには、所定の技能評価試験(学科・実技)に合格していることが必要です。
B技能実習3号(技能等に熟達)
入国4・5年目は「技能実習3号」となり、企業単独型は「技能実習3号イ」、団体監理型は「技能実習3号ロ」となります。
2号から3号へ移行するには、所定の技能評価試験(学科・実技)に合格していることが必要です。
第2号技能実習もしくは第3号技能実習に移行が可能な職種・作業(移行対象職種・作業)は主務省令で定められており、また、第1号技能実習から第2号技能実習へ、第2号技能実習から第3号技能実習へそれぞれ移行するためには、技能実習生本人が所定の試験(2号への移行の場合は学科と実技、3号への移行の場合は実技)に合格していることが必要です。
❶「移行対象職種」とは
「移行対象職種」とは、その職種に従事している技能実習生が第1号技能実習(1年以内の在留)から第2・3号技能実習(1年以上、最大5年の在留)に移行することを認められる業務であり、厚生労働省における専門家会議等を経て、省令別表(官報)への掲載をもって新規に追加されます。移行対象職種は「職種」という分類と、使用する機器や現場、製品の違いなどによって「職種」を細かく区別した「作業」という分類からなります。また、移行対象職種には必須業務(必ず従事する必要がある業務)が例外なく定められています。技能実習生の受入れにあたっては、必須業務をはじめとする基準に従って、技能実習計画の認定審査における業務内容の適合性、事後の立入調査の際に現場が不適正な状況に陥っていないか等の判断がなされることに注意が必要です。
❷移行対象職種ごとの「審査基準」
技能実習生が従事する業務が移行対象職種・作業に該当するか判断する基準が、厚生労働省が公表している「審査基準」です。「審査基準」には職種・作業に関する細かな要件が書かれているため、監理団体の計画作成指導者から、実習実施者の技能実習責任者、技能実習指導員まで、内容の確認が必要となります。
技能実習計画審査基準・技能実習実施計画書モデル例・技能評価試験の試験基準(厚生労働省HP)
❸移行対象職種の一覧と新規の職種追加
❹各業務における時間の割合
技能実習生が移行対象職種に従事する場合、業務時間の割合に要件が設けられています。すなわち必須業務の時間数が年間の実習時間全体の半分以上であること、関連業務は反対に年間の半分以下、周辺業務は3分の1以下である必要があります。また、必須業務・関連業務・周辺業務それぞれにおいて、「安全衛生業務」を設定する必要があり、時間数としては業務毎に全体の10%以上を占めていることが要件となります。
4.技能実習生の入国から帰国までの流れ
技能実習法に基づく新制度における技能実習生の入国から帰国までの主な流れは下図のとおりとなります。
右側のコンテンツ
監理団体型で技能実習生を受け入れるには、外国人技能実習機構に対し監理団体の許可申請(初めて受け入れる場合)、技能実習計画の認定申請を、入国管理局に対し在留資格認定証明書交付申請を、順に行う必要があります。
5.技能実習計画の作成と認定
技能実習を行わせようとする者(実習実施者)は、技能実習計画を作成し、その技能実習計画が適当である旨の認定を受ける必要があります。
@技能実習計画の作成
技能実習を行う機関が、技能実習生ごとに「技能実習計画」を作成しなければなりません。
技能実習計画には、技能実習法及びその関係法令で規定されており、以下の事項を記載しなければなりません。
・申請者自身の氏名、住所
・法人の場合には代表者名
・法人の役員の氏名、住所
・技能実習を行う事業所の名称及び所在地
・技能実習生の氏名、国籍
・技能実習の区分
・技能実習の目的
・事業所ごとの責任者の氏名
・団体監理型の場合は、監理団体の名称、所在地及び代表者の氏名
・技能実習生の待遇(報酬、労働時間、休日・休暇、宿泊施設、食費・居住費等)
・その他省令で定める事項
団体監理型技能実習を行う申請者は、監理団体の指導に基づいて、技能実習計画を作成する必要があります。
A技能実習計画の認定
技能実習計画の認定は、外国人技能実習機構が行います。
技能実習計画は、技能実習生ごとに、第1号、第2号、第3号のそれぞれの区分に応じて、認定を受けなければなりません。特に第3号技能実習計画については、実習実施者が、「技能等の修得等をさせる能力につき高い水準を満たすものとして主務省令で定める基準に適合していること」が必要です。
6.監理団体の許可
監理事業を行おうとする者は、外国人技能実習機構へ監理団体の許可申請を行い、主務大臣の許可を受けなければなりません。監理団体として満たさなければならない要件は、技能実習法令で定められています。監理団体の許可には、特定監理事業と一般監理事業の2つの区分があります。特定監理事業の許可を受ければ第1号から第2号まで、一般監理事業の許可を受ければ第1号から第3号までの技能実習に係る監理事業を行うことができます。
監理団体の主な許可基準は以下のとおりです。(職種によっては事業所管大臣の告示により許可基準が追加・変更される場合があります。)
@営利を目的としない法人であること
商工会議所・商工会、中小企業団体、職業訓練法人、農業協同組合、漁業協同組合、公益社団法人、公益財団法人等
A監理団体の業務の実施の基準(下記T〜Wが代表例)に従って事業を適正に行うに足りる能力を有すること
T実習実施者に対する定期監査(頻度は3か月に1回以上、監査は以下の方法によることが必要)
ア技能実習の実施状況の実地確認
イ技能実習責任者及び技能実習指導員から報告を受けること
ウ在籍技能実習生の4分の1以上との面談
エ実習実施者の事業所における設備の確認及び帳簿書類等の閲覧
オ技能実習生の宿泊施設等の生活環境の確認
U第1号の技能実習生に対する入国後講習の実施
V技能実習計画の作成指導
・指導に当たり、技能実習を実施する事業所及び技能実習生の宿泊施設を確認
・適切かつ効果的に実習生に技能等を修得させる観点からの指導は、技能等に一定の経験等を有する者が担当
W技能実習生からの相談対応(技能実習生からの相談に適切に応じ、助言・指導その他の必要な措置を実施)
B監理事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること
C個人情報の適正な管理のため必要な措置を講じていること
D外部役員又は外部監査の措置を実施していること
E基準を満たす外国の送出機関と、技能実習生の取次に係る契約を締結していること
F@?Eのほか、監理事業を適正に遂行する能力を保持していること
下記を満たさない場合は、監理事業を適正に遂行する能力があるとは判断されません。
・監理費は、適正な種類及び額の監理費をあらかじめ用途及び金額を明示したうえで徴収すること(法第28条)
・自己の名義をもって、他人に監理事業を行わせてはならないこと(法第38条)
・適切な監理責任者が事業所ごとに選任されていること(法第40条)
※監理責任者は事業所に所属し、監理責任者の業務を適正に遂行する能力を有する常勤の者でなければなりません。また、過去3年以内に監理責任者に対する養成講習を修了した者でなければなりません(2020年3月末までは経過措置あり)。
G<一般監理事業の許可を申請する場合>優良要件に適合していること
技能実習生受入れにかかる費用
技能実習生受入れのために監理団体に入会
一般的な、監理団体型技能実習を導入しようとすると、最初にどこかの監理団体に加入しなければなりません。ここで発生するおおよその費用としては、以下の通りです。
・入会金:1万円〜10万円 ・年会費:2万円〜10万円
入会金や年会費は、受入れる技能実習生の人数とは関係なく定額です。しかし受入れ人数が多くなってくると、複数の監理団体に加入するようなケースもあり、このような場合には、入会金や年会費も加入団体毎となり、コスト面では負担が大きくなります。なお、JITCO(公益財団法人 国際研修協力機構)に加入して、技能実習制度のサポートを受けるかどうかは、技能実習制度を導入する会社の判断です。監理団体も独自に技能実習制度を実施している団体と、JITCOと協力して実施している団体があります。JITCOのサポートを受入れる場合には、年会費10万円〜30万円が別途必要になります。
技能実習生受入れのため事前訪問費用
技能実習生の人選をするために、海外に出かけるための費用です。この部分は、担当職員を何人、何日現地に送り出すかなど、会社の方針でコストを調整できるところではあります。逆に言えば、いくらでもコストをかけられるところでもあり、会社判断次第です。複数の人の目で採用判断をする会社が多いと思いますので、少なくとも二人は現地に送りだすことになるでしょう。現地に担当職員を二人で2日間派遣したとして、往復の航空券代、宿泊費、食事代などで約35万円の出費にはなるでしょう。
技能実習生の入国準備費用
技能実習生として採用者が決まれば、ここから様々な費用が発生していきます。どのくらいの費用が発生するかは、技能実習生の母国や送り出し機関によって異なっていますので、以下の表は一つの目安として参考にしてください。
・在留資格認定申請及び取次費用:約2万円 ・技能実数性総合保険料(37か月分):約2〜6万円 ・雇入れ前健康診断費用:約1万円 ・入国前講習費:約2万円 ・入国渡航費:約10万円 合計:約17〜21万円(一人あたり)
技能実習生の入国後費用
技能実習生が日本に入国し、実際に仕事を始めるまでには、もう少し費用が発生します。それが入国後の研修であり、そのための費用と手当を支給しなければなりません。日本において健康診断ンは必ず受診しておく必要があります。
・入国後研修:約10万円 ・講習手当:約6万円 ・雇入時健康診断費用:約1万円
技能実習生が実習を始めるまでの総費用
技能実習生の導入を決定し、実際に実習を開始するまでにかかる費用の総額は、概ね以下の通りです。
・総合計:約63.7〜75万円(一人あたり)
技能実習生を採用したあとにかかる費用
技能実習生の導入し、実際に実習が始まったのちにかかる費用です。給与・社会保険以外にも以下のような費用が必要となります。
・監理団体の管理費:約60万円 ・送り出し機関管理費:約12万円 ・帰国渡航費積立金:約2万円 ・技能検定料:約2万円 ・在留資格変更及び更新、取次費用:約5万円
まとめ
技能実習生の受入れを決定してから、実際に技能実習を開始するまでには、一人当たり約70万円のコストが発生します。JITCOを利用するには、経費がその分プラスされることになります。監理団体の選定時に、JITCOを利用するかしないのか、そのあたりをよく検討し、適切な監理団体を選ばなければなりません。また、実習生の住宅環境への関心・配慮が欠けると、良質な人材確保が難しくなりがちです。住居費や食費は実習生が実費を負担するからといって、無関心でいるのは良い選択とはいえません。
送り出し機関から、良い人材を適正な金額で継続的に紹介してもらうためにも、表だってコストがかからない点にも配慮が必要です。